僕は料理が好きではない。
というより、苦手だ。
料理をすることに楽しさを感じるタイプでもない。
休日にスーパーへ行って、
「今日は何を作ろうかな」
なんて考えることもなかった。
できることなら、誰かが作ったものを食べたい。
もっと言えば、家まで持ってきてほしい。
だから以前の僕は、コンビニ、スーパー、そしてUber Eatsを駆使して生きていた。
朝になれば何か買う。
昼になれば何か買う。
夜になればUber Eatsを開く。
ちゃんと3食食べていた。
腹が減って困ることはない。
料理をする必要もない。
洗い物もほとんどない。
スマホを何回か触れば、しばらくすると玄関まで温かい料理がやってくる。
便利だ。
あまりにも便利だ。
人類はついにここまで来たのか。
僕は感動すらしていた。
しかし、当然ながら問題があった。
金だ。
月の食費を確認してみる。
10万円を超えていた。
……。
高い。
さすがに高い。
今になって当時の僕を振り返ると、一言言ってやりたい。
お前はどこの貴族なんだ。
朝から誰かが作ったものを食べる。
昼も誰かが作ったものを食べる。
夜になると、スマホで料理を選ぶ。
誰かが料理を作ってくれる。
そして別の誰かが、わざわざ僕の家まで運んできてくれる。
僕は家で待っているだけだ。
殿様か。
それで月末になって、
「食費、高いなあ」
とか思っている。
そりゃ高い。
人様に作ってもらって、人様に運んでもらっているのだ。
便利さには金がかかる。
当たり前である。
とはいえ、当時の僕にも事情はあった。
仕事が終わると疲れている。
家に帰ってまで何かしたくない。
料理なんて、なおさらだ。
だからお金を払って、その面倒くささを全部消していた。
それはそれで一つの方法だと思う。
でも、月10万円を超える食費を見て、さすがに思った。
このままではやばい。
何とかしなければならない。
食費を下げる方法。
考えるまでもない。
答えは分かっている。
ずっと見ないふりをしてきた。
ついに、こいつと向き合うときが来た。
じ、自炊だ。
とりあえずレシピを調べてみた
とはいえ、僕は料理が得意ではない。
何を作ればいいのかもよく分からない。
そこで、とりあえずレシピを調べた。
初心者でも作れそうなもの。
なるべく簡単そうなもの。
これなら僕でもいけるんじゃないか。
そう思える料理をいくつか見繕った。
必要な材料を確認する。
そしてスーパーへ向かった。
ここで早くも思う。
面倒くさい。
まだ料理すら始まっていない。
なのに、すでに面倒くさい。
レシピをスマホで確認しながらスーパーを歩く。
肉はこれ。
野菜はこれ。
調味料はこれ。
あれはどこだ。
これはどれを買えばいいんだ。
似たような商品がいっぱいある。
料理をする人にとっては当たり前の買い物なのかもしれない。
でも、ほとんど自炊をしてこなかった人間にとっては、食材を揃えるだけでも地味に疲れる。
店内をウロウロする。
スマホを見る。
食材を探す。
カゴに入れる。
またスマホを見る。
次を探す。
ようやく全部揃った。
会計を済ませる。
袋に詰める。
家まで持って帰る。
買うだけで疲れた。
しかし、まだ終わっていない。
というより、
何も始まっていない。
僕はまだ飯を食べていないのだ。
そうして、ようやく料理開始だ。
これを仕事終わりにやるのか?
食材を洗う。
切る。
焼く。
味付けする。
レシピを見る。
また作る。
途中で分からなくなって、またレシピを見る。
料理に慣れている人なら何でもない工程なのだろう。
でも、慣れていない僕にとっては一つひとつが作業だった。
そして、ようやく料理が完成した。
食べる。
終わり。
ではない。
洗い物がある。
フライパン。
包丁。
まな板。
皿。
箸。
その他いろいろ。
自炊、お前いつ終わるんだ。
ここで、ふと思った。
今日は休日だからいい。
時間がある。
多少疲れてもいい。
では、これを仕事が終わったあとにやるのか?
仕事へ行く。
働く。
疲れる。
帰りにスーパーへ寄る。
食材を買う。
重い袋を持って帰る。
そこから食材を切る。
焼く。
味付けする。
食べる。
洗う。
正気の沙汰ではない。
もちろん、世の中にはこれを普通にやっている人がたくさんいる。
本当にすごいと思う。
でも、僕には無理だと思った。
時間だけの問題ではない。
やろうと思えば時間は作れる。
体力だって、絶対に動けないほどではない。
でも、
メンタルが追いつかない。
仕事が終わった。
疲れた。
ようやく家に帰ってきた。
その状態から、
「今日何作ろう」
「何が残ってたっけ」
「何を先に使わないといけない?」
「これを切って」
「こっちを焼いて」
「そのあと洗い物して」
なんて考えたくない。
もう今日はいろいろ考えた。
十分だ。
これ以上、僕に判断を求めないでくれ。
しかし、自炊しなければ食費はまた10万円を超える。
どうする。
毎日Uber Eatsに戻るのか。
それとも、毎日気合いを入れて料理するのか。
どちらも嫌だ。
そこで僕は、考え方そのものを変えてみることにした。
自炊は「副業」だと思うことにした
僕は何のために自炊を始めたのか。
料理が好きだからではない。
料理が上手くなりたいからでもない。
素敵な料理をSNSに載せたいわけでもない。
目的はもっと単純だった。
食費を下げたい。
それだけだ。
以前は月10万円を超えていた。
自炊するようになった現在は、だいたい月3万円台に収まっている。
もちろん月によって多少変わる。
でも、大きく見れば、
月に約7万円違う。
ここで僕は思った。
これは節約ではない。
副業だ。
僕にとって自炊は、
月7万円を生み出す副業なのだ。
もちろん、本当に収入が7万円増えているわけではない。
銀行口座に「自炊手当7万円」が振り込まれるわけでもない。
でも、以前なら消えていた7万円が手元に残る。
僕にとっては、それで十分だ。
7万円を普通に働いて稼ごうと思ったら大変だ。
僕なら7〜8回くらい勤務に行かなければならない。
7回。
8回。
仕事へ行く。
何時間も働く。
帰る。
また仕事へ行く。
それを繰り返して、ようやく7万円。
それなら、
家で鶏むね肉を焼いた方がよくないか。
僕は料理が嫌いだ。
面倒くさい。
でも、
「追加で7〜8回働く」
のと、
「家で適当な飯を作る」
を並べられたら、後者を選ぶ。
そう考えると、仕事終わりの自炊に対する見え方が少し変わった。
「ああ、飯作らなきゃ……」
ではない。
「さて、副業するか」
である。
副業なんだから、徹底的に手を抜く
そして、もう一つ考え方を変えた。
ちゃんと作るのをやめた。
そもそも僕の目的は料理上手になることではない。
食費を下げることだ。
だったら、立派な料理を作る必要はない。
むしろ副業なら、短時間で終わった方がいい。
一時間かけて立派な料理を作るより、10分や15分で飯を用意できた方がいい。
だって、
手を抜けば抜くほど、この副業の時給は上がる。
だから僕の晩飯は、とても簡単だ。
鶏むね肉を解凍する。
焼く。
塩胡椒を振る。
以上。
料理名?
知らない。
「鶏むね肉のなんちゃらソテー」ではない。
焼いた鶏むね肉だ。
ついでに玉ねぎも焼く。
もちろん別のフライパンなんて使わない。
鶏むね肉を焼いているフライパンに入れる。
一緒に焼く。
洗い物を増やしたくない。
味噌汁?
インスタントだ。
お湯を注ぐ。
ご飯。
鶏むね肉。
玉ねぎ。
インスタント味噌汁。
できた。晩飯だ。
これでいい。
誰に見せるわけでもない。
料理コンテストに出場するわけでもない。
僕が食べるのだ。
僕が「晩飯」と言えば晩飯である。
朝飯なんて、もっと適当でいい
朝はさらに簡単だ。
納豆。
卵かけご飯。
キムチ。
そんな日もある。
納豆を開ける。
卵を割る。
キムチを出す。
できた。朝飯だ。
火すら使っていない。
これを自炊と呼んでいいのか。
知らない。
僕は呼んでいる。
誰かに、
「それは料理じゃない」
と言われても困る。
別に料理をしているつもりもない。
飯を食っているだけだ。
朝から鮭を焼いて、卵焼きを作って、味噌汁を作って、小鉢を用意する。
できる人はやればいい。
素晴らしい。
僕には無理だ。
旅館ではないのだ。
納豆。
卵。
キムチ。
ご飯。
十分だ。
昼飯は「うどんかパスタ」
昼もたいして変わらない。
うどんを茹でる。
めんつゆをかける。
納豆をぶちまける。
できた。昼飯だ。
あるいはパスタ。
茹でる。
ツナ缶を開ける。
ぶっかける。
できた。昼飯だ。
オシャレなパスタソースを一から作ったりはしない。
うどんの出汁を丁寧に取ったりもしない。
そんなことを毎日やっていたら、僕はたぶん自炊をやめている。
朝。
昼。
夜。
全部このくらいでいい。
僕はこの生活を一週間や一か月続けているわけではない。
もう2〜3年くらい続いている。
料理を好きになったから続いたわけでもない。
今でも料理が特別好きなわけではない。
ただ、
これくらいならできる。
それだけだ。
たぶん、それが一番大事なのだと思う。
レシピなんて毎回考えなくていい
最初の頃の僕は、順番を間違えていたのだと思う。
まずレシピを探していた。
「今日はこれを作ろう」
と決める。
必要な食材を確認する。
それをスーパーへ買いに行く。
でも、この方法は僕には面倒だった。
だから今は逆だ。
スーパーへ行く。
そして安いものを見る。
安い肉。
安い野菜。
使えそうなもの。
買う。
それだけだ。
「何を作るために何を買うか」ではない。
「安いから買う。あとで何とかする」
くらいでいい。
肉なら焼けばいい。
野菜も焼けばいい。
一緒に焼けそうなら、一緒に焼けばいい。
塩胡椒で食えるなら塩胡椒。
飽きたら味付けを変える。
僕は買い物も週に一回くらいだ。
毎日スーパーへ寄って、
「今日の晩ご飯はどうしよう」
なんて考えない。
自炊を続けるために僕が減らしたのは、料理の工程だけではない。
考える回数そのものを減らした。
毎日の献立を考えない。
毎日買い物へ行かない。
毎回新しいレシピを探さない。
毎日違う料理を食べようとしない。
昨日と同じでもいい。
明日も同じでもいい。
腹が満たされればいい。
このくらい適当にしたから、僕は2〜3年続けられているのだと思う。
余裕がある日は、ちゃんと作ってみてもいい
もちろん、毎日こんな食事しかしてはいけないわけではない。
休日。
時間がある。
ちょっと元気がある。
なぜか今日は料理してみたい。
そんな日もある。
そういう日はレシピを調べる。
少しこだわった料理を作ってみる。
いつも使わない食材を買ってみる。
手間のかかるものに挑戦してみてもいい。
それはそれで楽しい。
でも、僕はそれを毎日の義務にはしない。
生活のための自炊と、楽しむための料理は別物だ。
普段は手を抜く。
余裕がある日に遊ぶ。
これくらいでいい。
毎日の食事に、
「楽しまなければならない」
まで追加したら、また一つ仕事が増えてしまう。
料理が楽しい日は楽しむ。
面倒な日は胸肉を焼く。
塩胡椒。終了。
それでいい。
お金が浮いた。そして僕の場合、痩せた
僕が自炊を始めた目的は、あくまで節約だった。
食費10万円超。
これはさすがにまずい。
だから始めた。
結果、食費は3万円台になった。
月に約7万円浮いた。
これだけでも十分だった。
ところが、もう一つ変化があった。
僕の場合、痩せた。
考えてみれば当たり前なのかもしれない。
Uber Eatsやコンビニで好きなものを好きなように買っていた頃と比べれば、食事がずいぶんシンプルになった。
もちろん「自炊すれば絶対に痩せる」という話ではない。
何をどれだけ食べるかで変わる。
ただ、少なくとも僕の場合はそうだった。
節約するために始めたら、結果的に身体まで軽くなった。
財布は太って、僕は痩せた。
最高じゃないか。
あの頃の僕よ、お前はどこの貴族なんだ
改めて昔の生活を思い返す。
朝、買う。
昼、買う。
夜、Uber Eats。
料理は人に作ってもらう。
場合によっては玄関まで持ってきてもらう。
そして月10万円以上を食費に使う。
今の僕から見ると、とんでもない。
お前はどこの貴族なんだ。
今なら鶏むね肉を焼く。
玉ねぎを同じフライパンに入れる。
塩胡椒。
インスタント味噌汁。
できた。
これで普通に満足している。
朝なら納豆と卵。
昼ならうどんかパスタ。
それでいい。
もちろん、当時の僕を本気で責めたいわけではない。
あの頃はあの頃で、疲れていた。
自炊する余裕がなかった。
だから、お金を払って楽をしていた。
それで救われていた部分もあったと思う。
だから今、自炊ができなくて悩んでいる人にも、
「今すぐ毎日料理しろ」
なんて言うつもりはない。
いきなり全部変えなくていい。
毎日Uber Eatsなら、一日だけ自分で用意してみる。
コンビニで全部買っているなら、ご飯だけ家で炊いてみる。
納豆を買ってみる。
卵を割ってみる。
それだけでもいい。
少しずつ爵位を返上すればいい。
完璧にやろうなんてしなくていい
自炊を始めると、なぜかちゃんとやりたくなる。
栄養バランス。
彩り。
一汁三菜。
作り置き。
節約レシピ。
毎日違う献立。
そんなものを全部やろうとしたら、僕ならすぐにやめる。
だから僕はやらない。
完璧にやろうなんてしなくていい。
鶏むね肉を焼いただけ。
いい。
インスタント味噌汁。
いい。
納豆。
いい。
卵かけご飯。
いい。
うどんにめんつゆ。
いい。
ツナ缶をパスタにぶっかける。
いい。
それで飯になっているなら、僕は合格にしている。
自炊のハードルなんて、地面まで下げてしまえばいい。
またげるくらいでいい。
なんなら、またがなくてもいい。
踏んで歩けばいい。
続けるために必要なのは、立派な料理を作る能力ではなく、
「これでいい」と思えることなのかもしれない。
できない日があっても、自分を責めなくていい
そして、これだけは言いたい。
毎日できなくてもいい。
今日は疲れた。
スーパーに寄りたくない。
冷蔵庫を開ける気にもならない。
鶏むね肉すら焼きたくない。
そんな日はある。
コンビニでいい。
スーパーの惣菜でもいい。
Uber Eatsを頼んでもいい。
一回Uber Eatsを使ったくらいで、
「自炊生活失敗」
にはならない。
僕は自炊を副業だと思っている。
だったら、
副業にだって休日くらいあっていい。
今日は休業。
それでいい。
また明日できそうならやればいい。
朝起きて納豆を開ける。
卵を割る。
ご飯にかける。
できた。朝飯だ。
また始めればいい。
続けるというのは、毎日一度も休まないことではない。
休んでも、また戻ってくることだと思う。
今日は仕事で疲れた。それだけで十分だ
仕事が終わった。
疲れた。
もう何もしたくない。
そんな日にまで、
「ちゃんとしたご飯を作らなきゃ」
と自分を追い込まなくていい。
今日は仕事に行ったんだ。
朝起きた。
支度した。
家を出た。
働いた。
いろんなことを考えた。
いろんなことに気を使ったかもしれない。
そして、ちゃんと家まで帰ってきた。
もう、それだけで十分偉い。
最高なんだ。
そこからさらに料理まで完璧にやらなくていい。
できる日はやればいい。
できない日は休めばいい。
僕なんて、できる日ですら大したものは作っていない。
胸肉を焼く。
玉ねぎを入れる。
塩胡椒。
インスタント味噌汁。
できた。晩飯だ。
朝になったら納豆を開ける。
卵を割る。
できた。朝飯だ。
昼はうどんを茹でる。
めんつゆ。
納豆をぶちまける。
できた。昼飯だ。
そんな生活を2〜3年続けている。
そして食費は、月10万円を超えていた頃から3万円台になった。
料理は今でも別に好きじゃない。
料理上手にもなっていない。
でも、それでいい。
僕が欲しかったのは料理の腕前じゃない。
月7万円だ。
自炊は、僕にとって月7万円を生み出す副業だ。
だから効率よく。
できるだけ楽に。
手を抜けるところは、全部抜く。
そして疲れた日は休む。
それくらいでいい。
自炊ができなくてしんどい。
一人暮らしで疲れた。
そんな人は、まず完璧な料理を作ろうとするのをやめてみてほしい。
肉を焼くだけでもいい。
納豆を開けるだけでもいい。
インスタントでもいい。
惣菜に頼ってもいい。
それすら無理な日は、買えばいい。
自炊なんて、手抜きでいい。
今日できなかった自分を責める必要もない。
今日一日をちゃんと生きた。
まずは、それで十分だ。
そして明日、少し元気があったら。
冷蔵庫を開けよう。
胸肉を焼く。
塩胡椒を振る。
できた。晩飯だ。
今日の副業、終了。
