MENU

美容院で髪を切られているとき、どこを見ればいいのかわからない。

当ページのリンクには広告が含まれています。

まず、僕は美容院が苦手だ。

美容師さんが嫌いなわけではない。

髪を切ることが嫌いなわけでもない。

むしろ髪を切ったあとは気持ちいい。

頭は軽くなるし、伸び放題だった髪も綺麗になる。

だから美容院には行きたい。

ただ、

美容院にいる時間が苦手なのだ。

予約をして店に入る。

「こんにちはー」

と言われる。

「こんにちは」

と返す。

荷物を預ける。

椅子に座る。

ケープを巻かれる。

ここまではいい。

いや、本当はこのあと、

「今日はどうしますか?」

という最初の難関があるのだけれど、それはあとで話す。

なんとか注文を終える。

美容師さんが僕の後ろに立つ。

鏡の中に僕がいる。

その後ろに美容師さんがいる。

ハサミが入る。

そして僕は毎回思う。

どこを見ればいいんだ。

目の前には巨大な鏡。

美容師さんは後ろ。

逃げ場はない。

ここから三十分か四十分。

僕は自分の視線をどこかに置かなければならない。

美容院に来るたびに思う。

髪型の注文欄の横に、

「カット中、どこを見ればいいですか?」

という項目も作ってほしい。

目次

そもそも「今日はどうしますか?」から難しい

視線問題の前に、僕にはもう一つ苦手なことがある。

最初の注文だ。

椅子に座る。

美容師さんが鏡越しに聞く。

「今日はどうしますか?」

来た。

僕はいつも思う。

どうしましょう。

いや、髪を切りに来たのは僕だ。

僕が決めなければならない。

わかっている。

でも、髪型について専門的な知識があるわけではない。

「横はどうします?」

「後ろは?」

「前髪は?」

「量はすきます?」

次々に聞かれる。

僕の髪なのに、

僕より美容師さんの方が僕の髪について詳しい。

だから結局、

「全体的に短めで」

みたいな、ものすごく曖昧なことを言う。

全体的。

便利な言葉だ。

何も言っていないのに、何かを言った感じがする。

「耳は出します?」

「はい」

「襟足はすっきりさせます?」

「はい」

「前髪は眉くらい?」

「はい」

だんだん僕の注文ではなく、

美容師さんの提案に僕が承認印を押す会議

になってくる。

はい。

はい。

それで。

お願いします。

最終的には、

「いい感じでお願いします」

という、すべてをプロに投げる魔法の言葉が出る。

美容師さんからしたら、

その「いい感じ」を聞いてるんです

と思っているかもしれない。

申し訳ない。

でも僕にもわからない。

僕が欲しいのは、

美容院から出たときに、

「あ、なんかいい感じになったな」

と思える髪型だ。

その「なんか」の部分を説明できないから、僕は美容院に来ている。

鏡の中の自分を見るのは、なんか違う

そして、カットが始まる。

目の前には大きな鏡がある。

普通に考えれば、鏡を見ればいい。

美容院なんだから、自分の髪が切られていく様子を見る。

何もおかしくない。

でも、ずっと自分の顔を見ていると、だんだん恥ずかしくなってくる。

僕はいったい何十分、

自分の顔を見つめ続けているんだ。

ナルシストみたいじゃないか。

もちろん誰もそんなこと思っていないだろう。

美容師さんだって仕事をしている。

隣の客も自分の髪で忙しい。

僕が鏡を見ていようが、床を見ていようが、たぶん誰も気にしていない。

わかっている。

でも気になる。

鏡の中の自分と目が合う。

僕である。

当たり前だ。

目をそらす。

少しして、また鏡を見る。

また僕がいる。

ずっといる。

しかも美容院の鏡は大きい。

家の洗面台みたいに、ちょっと顔を見るための鏡ではない。

全力で僕を映してくる。

逃がす気がない。

普段、自分の顔をこんなに長時間見ることなんてない。

朝、歯を磨く。

数分。

髪を整える。

数分。

終わり。

それなのに美容院では、自分と四十分近く向き合わされる。

そんなに自分と向き合って生きていない。

美容院に来た途端、自己との対話が始まる。

髪を見るのも、チェックしているみたいで嫌だ

じゃあ顔ではなく、髪を見ればいい。

今どのくらい切ったのか。

横はどうなっているのか。

前髪はどうなっているのか。

それなら美容院らしい。

ところが、これもずっと見ていると気になる。

美容師さんからしたら、

「めちゃくちゃチェックするやん」

と思われないだろうか。

右を切る。

見る。

左を切る。

見る。

前髪を切る。

見る。

一センチ切るたびに監査している客みたいになる。

「そこ、本当に大丈夫ですか?」

なんて一言も言っていないのに、目だけで品質管理をしているような気がしてくる。

違う。

信用していないわけじゃない。

見るところがないだけなんです。

でも、それを説明する機会もない。

「すみません、さっきから髪を凝視していますが、技術を疑っているわけではありません。視線の置き場所がないだけです」

そんなことを突然言われた方が怖い。

下を見ると、落ち込んでいる人になる

では、下を見る。

これが一番安全そうに思える。

誰とも目が合わない。

自分の顔も見なくていい。

美容師さんの手元も監視しなくていい。

よし。

下を見よう。

でも、しばらく下を向いていると、

めちゃくちゃ落ち込んでいる人みたいになる。

美容院に来て何かあったのか。

人生に疲れているのか。

今から重大な決断でもするのか。

ただ髪を切りに来ただけなのに、

鏡の中には、

うつむいた男が一人いる。

しかもケープを巻かれている。

逃げ場がない。

たまに顔を上げる。

自分と目が合う。

また下を見る。

何かを抱えている人みたいになってきた。

しかも美容師さんから、

「大丈夫ですか?」

なんて聞かれたら終わりである。

大丈夫です。

めちゃくちゃ元気です。

ただ、見る場所がないんです。

目を閉じれば解決するのか

そこで僕は思う。

もう目を閉じればいいんじゃないか。

見なければ、見る場所に悩まなくていい。

完璧だ。

目を閉じる。

……。

これはこれで落ち着かない。

寝ていると思われないだろうか。

いや、美容院で目を閉じている人なんて普通にいる。

問題ない。

でも僕の場合、

「こいつ寝たな」

と思われている気がする。

しかも本当に少し眠くなってくる。

頭を触られている。

店内には静かな音楽が流れている。

暖かい。

目を閉じている。

条件が揃いすぎている。

このまま首が、

カクン。

となったら終わりだ。

美容師さんがハサミを持っている。

僕が突然動く。

危ない。

美容院で眠るにはリスクが高すぎる。

結局、目を開ける。

鏡を見る。

僕がいる。

振り出しに戻った。

スマホを見ればいい。と思ったけれど

そうだ。

スマホがある。

今の時代、これほど自然な視線の避難場所はない。

電車でもスマホ。

待ち時間もスマホ。

一人でご飯を食べていてもスマホ。

美容院だってスマホを見ればいい。

これで解決だ。

と思う。

でも、ケープを巻かれている。

手を出す。

スマホを持つ。

美容師さんが横を切る。

僕は画面を見る。

なんとなく首が下を向く。

「ちょっと顔まっすぐお願いします」

あ。

すみません。

顔を上げる。

スマホも上げる。

位置が高い。

胸の前でスマホを見ると下を向く。

顔の前まで持ち上げると、今度はスマホをものすごく真剣に見ている人になる。

しかも切った髪が画面に落ちてくる。

小さな毛が一本。

二本。

画面に貼りつく。

払いたい。

でもケープがある。

手を動かす。

また美容師さんの邪魔をしそうになる。

もういい。

スマホを置く。

鏡を見る。

僕がいる。

こいつ、本当にどこにでもいる。

雑誌を渡されても、急に読みたいものがない

美容院によっては雑誌やタブレットを渡してくれる。

これはありがたい。

視線問題が解決する。

読むものがある。

でも、ここでも小さな問題が起こる。

普段なら絶対に読まない雑誌を、

なぜか真剣に読むことになる。

最新のファッション。

芸能ニュース。

旅行特集。

高級時計。

「今年注目のリゾートホテル10選」

へえ。

僕は今、髪を切られながら、

なぜ南国のヴィラについて詳しくなっているんだ。

特に興味があるわけではない。

でもページを閉じると、また視線問題が始まる。

だから読む。

めちゃくちゃ読む。

人生で一番集中してリゾートホテルの記事を読んでいる。

美容師さんから、

「旅行好きなんですか?」

と聞かれる。

違う。

見るところがないんです。

またこれである。

一番困るのは、美容師さんと鏡越しに目が合う瞬間だ

そして、美容院にはもっと恐ろしい瞬間がある。

美容師さんと、

鏡越しに目が合う。

これが気まずい。

直接ならまだわかる。

人と話すときは目を見る。

普通だ。

でも鏡越しである。

僕は前を向いている。

美容師さんは後ろにいる。

なのに目が合っている。

不思議な状況だ。

しかも美容師さんが話しかけてくる。

「今日はお休みですか?」

鏡越しに目が合う。

「はい」

どこを見る。

美容師さんの目を見るのか。

自分を見るのか。

髪を見るのか。

一回目をそらすのか。

わからない。

とりあえず鏡越しに美容師さんを見る。

会話が続く。

ずっと目が合う。

近い。

直接向かい合っているわけでもないのに、精神的な距離だけ異様に近い。

少し目をそらす。

すると今度は、

「会話したくないと思われたかな」

と気になる。

もうどうすればいい。

「今日はお仕事お休みですか?」から始まる戦い

そもそも僕は、美容院での会話も少し苦手だ。

「今日はお休みですか?」

「このあとどこか行かれるんですか?」

「最近暑いですね」

「お仕事何されてるんですか?」

美容師さんも仕事として話してくれているのだと思う。

ありがたい。

無言で気まずくならないようにしてくれている。

わかっている。

でも、

僕は髪を切りに来ただけなのだ。

このあとどこへ行くのか。

特にどこにも行かない。

仕事は休みなのか。

そうです。

休みの日は何をするのか。

本を読みます。

どんな本を読むのか。

小説です。

最近読んだ本は。

話が広がっていく。

僕の髪を切るために、

なぜ僕の休日の過ごし方まで提出する必要があるのだろう。

もちろん、提出義務などない。

僕が勝手に答えているだけだ。

「特に何もしないです」

で終わらせてもいい。

それでも聞かれると答えてしまう。

美容院から帰るころには、髪だけでなく、僕のプロフィールまで少し整えられている。

「このあとどこか行かれるんですか?」が少し困る

特に困る質問がある。

「このあとどこか行かれるんですか?」

これだ。

たぶん美容師さんとしては、ただの会話である。

何の裏もない。

僕もわかっている。

でも、

「いや、帰ります」

と答えると、なぜか少し寂しい人みたいになる。

せっかく髪を切ったのに。

綺麗にセットまでしてもらったのに。

帰る。

美容師さんがワックスをつけてくれる。

前髪を整えてくれる。

「今日はこんな感じでセットしておきますね」

ありがとうございます。

そして僕はスーパーに寄って帰る。

今日の僕の髪型を最初に見るのは、

スーパーのセルフレジである。

誰にも会わない。

予定もない。

家に帰ったら風呂に入るかもしれない。

せっかく整えてもらった髪を数時間後には洗う。

なんだか申し訳ない。

だからといって、

「このあと友達と会います」

と架空の予定を作る必要もない。

堂々と言えばいい。

帰ります。

僕は今日、

髪を切るためだけに外へ出てきました。

それでいい。

話しかけてほしくないわけでもない

ただ、これも難しい。

じゃあ一切話しかけてほしくないのか。

そう聞かれると、

そこまでではない。

完全な無言も、それはそれで気まずい。

入店。

着席。

チョキチョキ。

……。

チョキチョキ。

……。

三十分。

これも長い。

たまには喋りたい。

でも、ずっと喋りたいわけではない。

つまり僕が求めているのは、

ちょうどいい量の会話

である。

一番めんどくさい客だ。

美容師さんからすれば、

「知らんがな」

だろう。

僕もそう思う。

自分でも自分の適量がわからない。

今日は喋れる日もある。

今日は静かにしていたい日もある。

しかも、その日の気分を美容師さんに読み取ってほしいと思っている。

超能力を要求している。

申し訳ない。

顔についた髪を、いつ払えばいいのかわからない

カットが進む。

前髪を切る。

短い毛が顔に落ちてくる。

鼻の横。

頬。

まぶたの近く。

かゆい。

ものすごくかゆい。

払い落としたい。

でも美容師さんは切っている。

今、手を出していいのか。

邪魔にならないか。

タイミングを待つ。

チョキ。

チョキ。

まだ切っている。

かゆい。

一本の髪が鼻の横にいる。

存在感がすごい。

普段なら一秒で払う。

でも美容院では、

一本の毛を五分くらい飼うことになる。

動くな。

もう少しだ。

耐えろ。

美容師さんが一瞬ハサミを置く。

今だ。

と思った瞬間、また切り始める。

遅かった。

毛はまだいる。

美容師さんが最後にブラシで顔を払ってくれたとき、

ものすごく気持ちいい。

ありがとう。

ずっとそこにいたんです。

シャンプー台だけは、僕を救ってくれる

そんな美容院の中で、

僕が比較的好きな時間がある。

シャンプーだ。

椅子が倒れる。

仰向けになる。

そして顔に布が置かれる。

救済である。

何も見なくていい。

自分の顔も見えない。

美容師さんも見えない。

視線をどこに置くか考えなくていい。

目を閉じても自然だ。

というか、閉じるしかない。

ここには正解がある。

目を閉じる。

以上。

美容院に入ってからずっと、

鏡を見るべきか。

下を見るべきか。

目を閉じるべきか。

美容師さんを見るべきか。

悩み続けていた僕に、

一枚の布が答えをくれる。

「もう何も見るな」

ありがとう。

ずっとこれをかけていてほしい。

できることなら、カット中も顔に布を置いてほしい。

危ない。

たぶん切れない。

ただし、シャンプーにも一つだけ問題がある

完璧に見えるシャンプーにも問題はある。

「かゆいところないですか?」

これだ。

たぶん、ない。

いや、あるのかもしれない。

でも急に聞かれるとわからない。

頭のどこか、かゆかったっけ。

確認しようとすると、急に頭皮全体を意識し始める。

右上。

左後ろ。

耳の近く。

……。

なんとなく全部かゆいような気がしてきた。

でも、

「右斜め後ろ、三センチくらい上です」

と指定するほどではない。

だから、

「大丈夫です」

と言う。

たぶん大丈夫だ。

美容院で僕が最もよく使う言葉は、

「大丈夫です」

かもしれない。

湯加減どうですか。

大丈夫です。

力加減どうですか。

大丈夫です。

かゆいところないですか。

大丈夫です。

僕はシャンプー台で、

ひたすら大丈夫な男になる。

そして最後に「どうですか?」と聞かれる

長い戦いが終わる。

髪が整う。

美容師さんが最後に鏡を見せてくれる。

「こんな感じでどうですか?」

僕は鏡を見る。

正面。

横。

美容師さんが小さな鏡を後ろに持っていく。

後頭部が映る。

「後ろはこんな感じです」

僕は思う。

わからない。

後頭部なんて普段見ない。

昨日の自分の後頭部がどうなっていたのか覚えていない。

比較対象がない。

「どうですか?」

と言われても、

何を基準に判断すればいいのだ。

左右のバランス。

襟足。

刈り上げ。

綺麗なんだと思う。

プロがやってくれている。

たぶんいい。

だから僕は毎回、

「いい感じです」

と言う。

本当にいい感じだと思っている。

でも同時に、

よくわかっていない。

特に後頭部については、ほぼ全面的に美容師さんを信用している。

後ろだけ突然モヒカンになっていても、

「いい感じです」

と言ってしまう自信がある。

「もう少し切りますか?」と言われても困る

最後の確認で、

「前髪、もう少し切ります?」

と聞かれることもある。

これも難しい。

今の状態がベストなのか。

あと五ミリ切った状態がベストなのか。

僕には未来が見えない。

切った髪は戻らない。

「もう少しお願いします」

と言って、

「あ、さっきの方がよかった」

となっても遅い。

だから慎重になる。

鏡を見る。

前髪を見る。

考える。

美容師さんも待っている。

数秒なのに長い。

最終的に、

「これくらいで大丈夫です」

と言う。

また大丈夫だ。

僕の髪型は、

僕の強い意志によって完成しているのではない。

大量の「大丈夫です」によって完成している。

美容院が苦手なのは、髪を切るからではなかった

こうして考えてみると、

僕が美容院を苦手なのは、髪を切ることが嫌だからではない。

美容師さんが嫌いだからでもない。

自分がどう振る舞えばいいのかわからない時間が長いからなのだと思う。

どう注文するのか。

どこを見るのか。

どれくらい喋るのか。

目を閉じていいのか。

スマホを触っていいのか。

顔についた髪はいつ払うのか。

「このあとどこか行きますか?」にどこまで答えるのか。

「かゆいところないですか?」に本当にないと言い切っていいのか。

「どうですか?」にどのくらい本気で答えるのか。

どれも小さなことだ。

人生を左右するような問題ではない。

誰も気にしていないことなのかもしれない。

たぶん、美容師さんは毎日何人もの髪を切っている。

僕が三分間床を見ていたことなんて、帰るころには忘れているだろう。

僕が鏡越しに目が合って一瞬そらしたことも覚えていない。

僕が雑誌のリゾートホテル特集を異様な集中力で読んでいたことも、どうでもいい。

わかっている。

全部わかっている。

それでも僕は考える。

たぶん僕は「正解がない場所」が苦手なのだ

美容院だけではないのかもしれない。

僕は、

どう振る舞ってもいい場所で、どう振る舞えばいいのかわからなくなる。

「ここではこうしてください」

と決まっていれば楽だ。

シャンプー台がまさにそうだ。

仰向けになる。

顔に布が置かれる。

目を閉じる。

終わり。

迷うことがない。

でもカット中は自由だ。

鏡を見てもいい。

スマホを見てもいい。

雑誌を読んでもいい。

美容師さんと喋ってもいい。

黙っていてもいい。

目を閉じてもいい。

何をしてもいい。

だから困る。

自由というのは、ときどき難しい。

正解がないとわかっているのに、

勝手に正解を探してしまう。

「普通の人はどこ見てるんだろう」

「今の振る舞い変じゃないかな」

そんなことを考える。

たぶん誰も僕を採点していない。

なのに僕だけが、

美容院で一人、

美容院の客としての正解

を探している。

そして次も、僕はたぶん迷う

結局、カット中にどこを見ればいいのか。

ここまで考えても答えは出なかった。

鏡を見る。

自分がいる。

髪を見る。

監視しているみたいだ。

下を見る。

落ち込んでいるみたいだ。

目を閉じる。

寝ているみたいだ。

スマホを見る。

首が下がる。

雑誌を見る。

興味のない南国リゾートに詳しくなる。

美容師さんを見る。

鏡越しに目が合う。

気まずい。

詰んでいる。

結局、正解なんてないのだろう。

好きなところを見ればいい。

喋りたければ喋ればいい。

黙りたければ黙ればいい。

美容師さんも、そんなに気にしていない。

頭ではわかっている。

たぶん、次に美容院へ行くときも僕はそう自分に言い聞かせる。

大丈夫。

誰も見ていない。

好きにしていればいい。

予約をする。

店に入る。

「今日はどうしますか?」

「全体的に短めで」

なんとか注文を終える。

ケープを巻かれる。

美容師さんが後ろに立つ。

ハサミを持つ。

目の前には大きな鏡。

そこには僕がいる。

僕と目が合う。

三秒くらい見る。

なんとなく恥ずかしくなって目をそらす。

髪を見る。

監視している気がしてやめる。

下を見る。

落ち込んでいるみたいで顔を上げる。

美容師さんと鏡越しに目が合う。

慌ててまた自分を見る。

僕がいる。

そして、たぶん次回も同じことを思う。

だから、美容院で髪を切られているとき、どこを見ればいいんだ。

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!

この記事を書いた人

目次