電車が駅に到着した。
僕はドアの前に立っていた。
次の駅で降りる予定だ。
電車がゆっくりと減速する。
ホームが見えてくる。
ドアの向こうには、電車を待っている人たちがいる。
やがて電車が停止した。
プシュー。
ドアが開く。
僕は一歩踏み出そうとした。
その瞬間だった。
正面から、一人の男が乗り込んできた。
……。
おい。
待て。
僕は今から降りるんだ。
男は僕の横をすり抜け、車内へ入っていった。
危うく肩がぶつかるところだった。
僕は思わず足を止めた。
何なのだろう。
なぜ待てないのだろう。
降りる人が先。
乗る人は後。
たったこれだけの話である。
別に難しいことではない。
複雑な計算も必要ない。
特別な資格もいらない。
小学生でも理解できるルールだと思う。
それなのに、なぜか守れない大人がいる。
しかも、一人ではない。
まだ人が降りているのに、横から乗り込んでくる人。
ドアの真正面で待ち構えている人。
列に並んでいる人を追い抜いて乗り込む人。
いろいろな選手が存在する。
選手。
そうだ。
もしかすると、彼らは何かの競技に参加しているのかもしれない。
世界陸上か。
金メダルでもかかってんのか。
僕は不思議で仕方がない。
そんなに急いで乗ったところで、電車の到着時間は変わらない。
一着で乗ろうが、十着で乗ろうが、同じ電車に乗っている限り、同じ駅に同じ時刻に到着する。
全員、同着である。
それなのに、なぜ我先にと乗り込んでくるのだろう。
今回は、電車で降りる人を待たずに乗る人の心理と、その危険性について考えてみたい。
そして、どうすればこの謎の競技を終わらせられるのか。
僕なりに考察してみようと思う。
電車は降りる人が先。それなのになぜ待てないのか?
そもそも、電車の乗り降りには基本的な順番がある。
まず、車内にいる人が降りる。
それから、ホームで待っている人が乗る。
これだけだ。
なぜこの順番なのか。
理由は単純である。
降りる人が出なければ、車内のスペースが空かないからだ。
例えば、満員電車を想像してほしい。
車内には大勢の人がいる。
身動きが取れないほど混雑している。
そんな状態で、さらに乗り込もうとしたらどうなるだろう。
当然、入れない。
しかし、駅で何人か降りれば、その分だけスペースが空く。
そこへ新しい乗客が乗る。
実に合理的な仕組みである。
ところが、この仕組みを無視する人がいる。
ドアが開いた瞬間、突っ込んでくる。
まだ降りる人がいる。
それでも突っ込んでくる。
こちらが避けなければ、ぶつかりそうになる。
僕は思う。
お前が待て。僕は降りるんだ。
なぜ、降りる側が避けなければならないのだろう。
順番を守っているのはこちらである。
それなのに、こちらが立ち止まる。
こちらが体を横にする。
こちらが進路を譲る。
何という理不尽な状況だろう。
しかも、乗り込んでくる人の中には、まるでこちらが邪魔をしているかのような顔をする人までいる。
いや、違う。
邪魔をしているのはお前だ。
僕はただ降りようとしている。
目的地に到着したから、電車を降りる。
それだけのことだ。
それなのに、なぜか障害物競走が始まっている。
僕は電車を降りたいのであって、障害物を避けながらゴールを目指したいわけではない。
ドアの真正面に立つ人。お前は改札か。
乗り込んでくる人だけではない。
ドアの真正面で待ち構えている人もいる。
電車が到着する。
ドアが開く。
さあ、降りよう。
そう思って前を見る。
人がいる。
真正面にいる。
微動だにしない。
……。
お前は何をしているのだ。
普通、降りる人が通れるように、ドアの左右で待つものではないだろうか。
ところが、その人は正面に立っている。
まるで門番である。
僕は一瞬、通行許可が必要なのかと思った。
「すみません、降りてもよろしいでしょうか」
そう尋ねなければならないのだろうか。
お前は改札か。
しかも、こちらが降りようとすると、ようやく少しだけ体をずらす。
ほんの少し。
人が一人通れるかどうかという隙間である。
なぜそんなに中央を守りたいのだろう。
そこには何か大切なものがあるのだろうか。
埋蔵金でも眠っているのか。
もちろん、混雑していて十分に移動できない場合もある。
しかし、左右にスペースがあるのに、わざわざ真正面に立ち続ける人を見ると不思議になる。
降りる人の通り道を空けた方が、自分も早く乗れるはずなのに。
自分が乗ることばかり考えて、降りる人の動きまで意識が向いていないのかもしれない。
きちんと並んでいる人を抜かして乗る人。お前は何位を狙っているんだ。
そして、僕がもう一つ腹立たしく思うのが、並んでいる人を追い抜いて乗り込む人だ。
今度は、ホームで待っている側の話である。
僕は電車を待っていた。
ちゃんと列に並んでいる。
電車が到着した。
ドアが開く。
乗客が降り始める。
僕は待つ。
当然だ。
降りる人がいるのだから。
すると、後ろから足音が聞こえた。
一人の男が、僕の横をすり抜けていく。
そして、そのまま車内へ突っ込んでいった。
……。
お前、何してんねん。
僕は並んでいた。
お前より先に並んでいた。
そして、降りる人がいるから待っていた。
なのに、お前は後ろから来て、僕を追い抜いて乗っていった。
何の追い抜きだ。
ここは駅のホームだ。
マリオカートではない。
僕はアイテムをぶつけられたわけでもない。
バナナの皮を踏んでスピンしたわけでもない。
ただ、ルールを守っていただけである。
それなのに、なぜ順位を落とさなければならないのだろう。
そもそも、順位とは何だ。
電車に乗ることに順位など存在するのだろうか。
一着で乗ったら金メダルがもらえるのか。
二着なら銀メダルか。
三着なら銅メダルか。
そんな制度は聞いたことがない。
しかも、全員同じ電車に乗るのだ。
僕は遅かったんじゃない。待っていたんだ。
ここが重要である。
乗り遅れたわけではない。
ぼんやりしていたわけでもない。
スマホに夢中になっていたわけでもない。
ただ、降りる人を優先していただけだ。
それなのに、後ろから来た人が先に乗っていく。
これでは、ルールを守っている人が損をする。
もちろん、ほんの数秒の話かもしれない。
しかし、問題は時間の長さではない。
順番を守っている人を押しのけてまで、先に行こうとする態度なのだ。
そして、そういう人が一人現れると、後ろの人まで続いて乗り始めることがある。
一人が動く。
もう一人が動く。
さらに別の人が動く。
気づけば、まだ降りる人がいるのに乗車が始まっている。
誰かがルールを破ることで、周囲の行動まで変わってしまう。
これも厄介なところだと思う。
電車で降りる人を待てない人の心理とは?
では、なぜこうした行動を取る人がいるのだろう。
本人に直接聞いたわけではないので、理由を断定することはできない。
ただ、人間の心理を考えると、いくつかの可能性が浮かんでくる。
① とにかく座席を確保したい
まず考えられるのは、座席を確保したいという心理だ。
早く乗れば、空いている席に座れるかもしれない。
長時間の通勤なら、できるだけ座りたい。
その気持ちはわかる。
僕だって、座れるなら座りたい。
しかし、だからといって、降りる人を押しのけていい理由にはならない。
しかも、よく考えてほしい。
今、車内にいる人が降りようとしている。
その人が座っていた席が空く可能性もある。
つまり、降りる人を待つことは、座席が空くのを待つことでもある。
それなのに、なぜ突っ込んでいくのだろう。
席を確保したい気持ちが強くなりすぎて、目の前の状況を冷静に判断できなくなっているのかもしれない。
人は、欲しいものが目の前にあると、それを手に入れることに意識が集中しやすい。
座席という目標ばかり見て、そこへ向かう途中にいる人の存在が見えなくなっている。
そんな可能性もあるだろう。
ただ、一つ言いたい。
座席は逃げない。少なくとも、まだ降りる人がいるうちは待て。
② 乗り遅れることへの焦り
次に考えられるのは、焦りである。
電車のドアが開く。
乗客が降りる。
その様子を見ているうちに、早く乗らなければと不安になる。
ドアが閉まってしまうかもしれない。
自分だけ取り残されるかもしれない。
そんな気持ちが働くのかもしれない。
もちろん、混雑状況によっては、乗り切れないこともある。
しかし、降車中の人を押しのけて乗ることが、安全で確実な方法とは思えない。
むしろ、乗り降りの流れを妨げる可能性がある。
そして、ここで僕は思う。
そんなに急いで乗ったところで、電車の到着時間は変わらない。
一番に乗った人も、最後に乗った人も、同じ電車である。
電車そのものが速くなるわけではない。
運転士が、
「おお、すごい勢いで乗り込んできた人がいるぞ。よし、今日は特別に速度を上げよう」
などと言うわけがない。
全員、同じ駅に到着する。
それなのに、数秒でも早く乗ろうとする。
急いでいるつもりが、実際には何も得をしていない場合もあるのではないだろうか。
③ 周囲の人が見えていない
三つ目は、周囲への注意不足だ。
自分が電車に乗ることしか考えていない。
だから、降りてくる人の存在に十分注意を払っていない。
目の前のドアが開いた。
乗れる。
そう思った瞬間、体が動いてしまう。
しかし、電車の乗り降りは、自分一人で完結する行動ではない。
降りる人がいる。
乗る人がいる。
列に並んでいる人がいる。
さまざまな人が同じ場所を利用している。
だからこそ、周囲の動きを確認する必要がある。
特に駅のホームは、歩く人も多く、場所によっては非常に混雑している。
そんな場所で、自分の進む方向だけを見ていたら危ない。
少し視野を広げれば、降りる人がいることに気づけるはずだ。
そして、気づいたなら待てばいい。
本当に、それだけのことなのである。
④ 自分一人くらいなら大丈夫だと思っている
四つ目は、「自分一人くらい」という心理だ。
少しくらい割り込んでも問題ない。
一人くらい先に乗っても変わらない。
そんなふうに考えている可能性もある。
しかし、同じことを全員が考えたらどうなるだろう。
一人が先に乗る。
次の人も先に乗る。
さらに次の人も先に乗る。
結局、降りる人の通り道が塞がってしまう。
これは、個人にとって都合のいい行動が、集団全体では不都合を生む例だと思う。
自分一人の行動なら小さな問題に見える。
しかし、それが積み重なれば、大きな混乱につながる。
駅のホームで必要なのは、自分だけが早く乗ることではない。
全員が安全に乗り降りできることである。
⑤ 他人より先に行きたいという競争意識
最後は、競争意識だ。
これが、個人的には少し面白いと思っている。
人は、ときどき本来の目的を忘れてしまうことがある。
例えば、電車に乗る目的は何だろう。
目的地へ移動することだ。
しかし、いつの間にか、他人より先に乗ることが目的になってしまう。
先に行きたい。
抜かされたくない。
一番になりたい。
そんな心理が働く場合もあるのではないだろうか。
特に、周囲の人が急いでいると、自分も急がなければならないような気分になることがある。
誰かが動けば、自分も動く。
誰かが前に出れば、自分も前に出る。
そして、気づけば競争が始まっている。
しかし、何度も言う。
全員、同じ電車に乗るのである。
順位を競う意味がない。
金メダルもない。
賞金もない。
表彰式もない。
ただ、乗車順が少し早くなるだけだ。
それなのに、まるで人生を懸けたレースのように突っ込んでくる。
僕には不思議で仕方がない。
小学生の運動会ですら、スタートの合図を待っている
ここで、小学生の運動会を思い出してほしい。
50メートル走である。
子どもたちがスタートラインに並んでいる。
先生が声をかける。
「位置について」
子どもたちが構える。
「よーい」
緊張が走る。
パンッ!
一斉に走り出す。
みんな、ちゃんとスタートの合図を待っている。
もちろん、緊張してフライングしてしまう子もいるだろう。
それでも、スタートの合図を待つというルールは理解している。
ところが、駅のホームではどうだ。
電車が到着する。
ドアが開く。
まだ降りる人がいる。
それなのに、すでに走り出している大人がいる。
……。
お前ら、何やねん。
世界陸上か。
金メダルでもかかってんのか。
小学生でもスタートの合図を待っている。
なのに、大人が待てない。
しかも、競技の内容がよくわからない。
50メートル走なら、速く走った人が勝つ。
100メートル走でも同じだ。
しかし、電車への乗車競争は違う。
一番に乗っても、最後に乗っても、到着時間は変わらない。
何という競技だろう。
全員が同じゴールに、同じ時刻に到着する。
全員同着。
それなのに、フライングしている選手がいる。
追い抜きまでしている選手がいる。
僕は思う。
そこまでして勝ちたいのか。
いや、そもそも何に勝とうとしているのだ。
電車に乗るという日常の行動を、勝手に世界大会へ変えないでほしい。
僕は出場登録をした覚えがない。
ゼッケンもつけていない。
ただ、会社へ行きたいだけである。
降りる人を待たずに乗る行為は、危険でもある
ここまでは少しふざけて書いてきたが、危険性については真面目に考えたい。
降りる人を待たずに乗り込む行為は、単なるマナー違反で済まない場合がある。
まず、人とぶつかる危険がある。
電車から降りようとしている人と、乗り込もうとしている人。
互いに反対方向へ進んでいる。
そこで一方が急に飛び込んでくれば、衝突する可能性がある。
さらに、駅のホームと車両の間には、隙間や段差がある。
ぶつかった拍子にバランスを崩せば、転倒や足の踏み外しにつながるおそれもある。
特に、高齢者や小さな子ども、足元が不安定な人にとっては危険だ。
大きな荷物を持っている人もいる。
杖を使っている人もいる。
誰もが素早く避けられるわけではない。
そもそも、降りる人が避けなければならない状況を作ること自体がおかしい。
順番を守っていれば、防げる危険がある。
それなのに、数秒早く乗るために、その危険を生み出してしまう。
しかも、乗り降りの流れが乱れれば、かえって時間がかかることもある。
早く乗ろうとして、結果的に全体を遅くしている。
何とも皮肉な話である。
急いでいるからこそ、安全でスムーズな乗降に協力した方がいい。
本来はそういうことなのだと思う。
では、どうすればいいのか?
現実的な対処法としては、まず自分の安全を優先することだろう。
正面から人が突っ込んできたとき、無理に進もうとすれば衝突する可能性がある。
腹が立つのはわかる。
僕だって腹が立つ。
しかし、そこで意地を張っても危ない。
ぶつかりそうなら、いったん足を止める。
周囲を確認して、安全に降りる。
ホームで待っているときも同じだ。
後ろから割り込まれたからといって、追いかけて競争する必要はない。
そんなことをしたら、こちらまで世界陸上に出場することになってしまう。
僕は選手ではない。
ただの乗客である。
また、危険な割り込みが繰り返される場所なら、駅員に相談するのも一つの方法だと思う。
乗車位置の案内や注意喚起によって、改善できることもあるかもしれない。
ただ、僕にはもう一つ、考えている対策がある。
少し大胆な方法だ。
いや、かなり大胆かもしれない。
しかし、これなら問題を解決できるのではないだろうか。
駅のホームに審判を配置してほしい
そうだ。
駅のホームに審判を置いてほしい。
電車が到着する。
ドアが開く。
乗客が降り始める。
その瞬間、一人の男が勢いよく乗り込んでいく。
ピーーーーーッ!!
笛の音がホームに響き渡る。
審判が全速力で駆け寄ってくる。
「フライング!」
男は驚いて振り返る。
「えっ?」
「まだ降車中だろうが!」
「いや、ちょっと急いでて……」
「急いでも到着時間変わらんぞ、お前!」
「でも、会社に遅れるんです!」
「それはもっと早く家を出ろ!」
男は黙り込む。
審判が胸ポケットからイエローカードを取り出した。
「警告!」
男は不満そうな顔をしている。
しかし、仕方がない。
ルールを破ったのだから。
そして、次の駅。
同じ男が、また降りる人を押しのけて乗り込もうとした。
ピーーーーーッ!!
「お前、またか!」
審判が駆け寄ってくる。
「イエロー2枚目!」
続けて、レッドカードを突きつける。
「永久退場!!」
「えっ、永久ですか!?」
「そうだ!」
「明日からどうやって会社に行けばいいんですか!?」
「知らん! 歩け!」
男は肩を落とした。
これで、また一人の選手が競技資格を失った。
いや、違う。
通勤手段を失った。
しかし、仕方がない。
ルールとは、守るために存在するのだから。
悪質な追い抜きは一発レッド
そして、僕はもう一つ提案したい。
降りる人を待っている列を、後ろから追い抜いて乗り込む行為。
これは、さらに厳しく取り締まってほしい。
例えば、僕がホームで並んでいる。
電車が到着する。
ドアが開く。
僕は降りる人を待っている。
すると、後ろから男が走ってきた。
僕を追い抜き、そのまま車内へ突っ込んでいく。
ピーーーーーッ!!
審判が飛び出してくる。
「フライング! さらに追い抜き違反!」
男が振り返る。
「いや、ちょっと急いで……」
「一発レッド!! 退場!!」
「えっ、イエローじゃないんですか!?」
「悪質や! お前は二つのルールを同時に破った!」
「でも、座りたくて……」
「知らん! 次の駅まで走れ!」
僕はその光景を見ながら、静かに頷いた。
当然の判定だ。
僕は遅かったんじゃない。
待っていたんだ。
その順番を無視して追い抜いていくのだから、厳しい処分もやむを得ない。
もちろん、現実にこんな審判がいるわけではない。
あくまで僕の頭の中の話である。
しかし、想像するだけで少し気分が晴れる。
そして、僕の構想はさらに膨らんでいった。
違反者は指名手配にしよう
一発レッド。
永久退場。
しかし、これだけでは足りないかもしれない。
なぜなら、別の駅へ行けば、また同じことをする可能性があるからだ。
そこで僕は考えた。
指名手配にしよう。
全国の駅のホームに、違反者のポスターを貼るのだ。
もちろん、これも現実にやっていいという話ではない。
僕の頭の中だけで開催されている、架空の取り締まりである。
翌朝。
いつもの駅のホーム。
壁には一枚のポスターが貼られていた。
【指名手配】
容疑:降車妨害・フライング乗車・悪質な追い抜き
特徴:電車が到着すると急に足が速くなる。
犯行手口:降りる人を待たずに乗車。列に並ぶ人を後方から追い抜く。
注意事項:本人は「急いでいた」と供述するが、電車の到着時刻は変わらない。
僕はポスターを眺めながら、満足げに頷いた。
素晴らしい。
これでいい。
全国の駅に審判を配置する。
フライングにはイエローカード。
悪質な追い抜きには一発レッド。
常習犯は永久退場。
そして、指名手配。
ここまで徹底すれば、もう誰も降りる人を押しのけて乗ろうとはしないだろう。
誰もがルールを守る。
誰もが順番を待つ。
降りる人が安全に降りる。
乗る人が落ち着いて乗る。
駅のホームには平和が訪れる。
僕は静かに目を閉じた。
長い戦いだった。
しかし、ついに勝利したのだ。
翌朝。
いつもの駅のホーム。
電車が到着した。
ドアが開く。
誰も動かない。
ホームの人たちは、全員きちんと待っている。
素晴らしい。
これだ。
僕が求めていた光景は。
しかし、何かがおかしい。
誰も動かない。
ホームの人たちだけではない。
車内の人たちも動かない。
全員が、互いの顔を見つめている。
……。
おい。
降りる人は降りてええねん。
