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メタルはうるさいだけ。魅力とは何なのか。メタルを聴く人は頭がいい?

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高校生の頃、僕は軽音楽部に入っていた。

担当はベース。

音楽を始めたばかりの頃というのは、とにかくいろんな音楽を聴いてみたくなる。

それまで何となく耳に入ってきた音楽ではなく、「バンドをやっている人間」として音楽を聴いてみたくなるのだ。

ギターが格好いい曲。

ベースが目立つ曲。

ドラムが難しそうな曲。

いろんなバンドを聴いた。

そんな中で、僕はヘヴィメタルにも手を出した。

そして思った。

なんだこれ。うるさいだけやん。

まず、何を歌っているのか分からない。

ボーカルは歌っているというより叫んでいる。

英語だから分からないとか、そういう問題ではない。

たぶん日本語でも分からない。

ギターもよく分からない。

音が歪みすぎている。

ギュイーン。

ズガガガガ。

ジャジャジャジャ。

「今、何弾いてるん?」

となる。

ドラムも速い。

とにかく速い。

僕には「すごい」より先に、

「急いでるなあ」

が来た。

全員、一回落ち着いてほしい。

そしてベース。

僕はベースを始めたばかりだったから、当然ベースにも注目したかった。

だが、いない。

どこにいる。

僕の仲間はどこだ。

ギターとドラムと叫び声の巨大な壁の向こう側で、何か低い音が鳴っている気はする。

でも初心者の僕には、その輪郭がほとんど分からなかった。

こうして僕の中で、メタルには一つの判決が下された。

うるさい音楽。

もちろん演奏がすごいことくらいは分かる。

でも、わざわざ日常的に聴きたいとは思わなかった。

もっと普通に歌ってくれ。

もっと普通に弾いてくれ。

そんな感じだった。

それから僕は、ほとんどメタルを聴かずに生きてきた。

僕は僕で生きる。

メタルはメタルで、どこか遠くでドコドコしている。

それでよかった。

目次

社会人になって、なぜかメタルを聴きたくなった

ところが社会人になってから、ある日ふとメタルを聴きたくなった。

理由は単純だった。

なんか、全部が嫌になった。

仕事をしていると、学生の頃にはなかった種類の感情が溜まっていく。

納得できないことがあっても、とりあえず「分かりました」と言う。

腹が立っても、その場では飲み込む。

意味が分からない決まりにも従う。

「それ、おかしくないですか」

と思っても、毎回全部言っていたら仕事にならない。

別に毎日ブチ切れているわけではない。

むしろ逆だ。

大人になると、そんなにブチ切れなくなる。

怒鳴らない。

机をひっくり返さない。

会社の壁に穴も開けない。

ちゃんと帰る。

コンビニに寄る。

風呂に入る。

寝る。

そして次の日も普通に仕事へ行く。

でも、怒っていないわけではない。

怒り方を覚えたのではなく、怒りを出さない方法を覚えただけなのかもしれない。

そんな日に、なぜか昔聴いたメタルを思い出した。

イヤホンをつけて流してみた。

うるさい。

やっぱり、うるさい。

ギターは歪んでいる。

ドラムはドコドコしている。

ボーカルは叫んでいる。

何を言っているのか、やっぱりよく分からない。

なのに。

気持ちよかった。

学生の頃は「うるさいからやめてくれ」と思っていた音が、その日は「もっとやってくれ」に変わった。

もっと鳴らしてくれ。

もっと歪ませてくれ。

もっと叩いてくれ。

もっと叫んでくれ。

自分では叫ばない。

会社でも叫ばない。

電車でも叫ばない。

家に帰っても叫ばない。

その代わりに、イヤホンの向こう側で知らない人が全力で叫んでいる。

自分の叫びを代弁してくれているようだった。

学生の頃の僕は、

「何を言っているのか分からない」

と思った。

社会人になった僕は、

「何を言っているのか分からない。でも、何を言いたいのかは分かる」

と思った。

不思議だった。

音楽はほとんど変わっていない。

変わったのは、僕の方だった。

そこから僕は少しずつメタルを聴くようになった。

そして昔の自分がなぜ「うるさいだけ」と思ったのかも、なんとなく分かってきた。

僕は「うるさい」の奥まで行っていなかったのだ。

メタルは、うるさくなくなるわけではない

ここは大事なので言っておきたい。

メタルを好きになったからといって、メタルがうるさくなくなるわけではない。

今聴いても、うるさい。

めちゃくちゃうるさい。

隣の部屋から突然流れてきたら、

「何事だ」

と思うだろう。

ただ、聴いているうちに変わったことがある。

うるさい音の解像度が上がっていく。

昔は、

「ギャー! ギュイーン! ドコドコドコ!」

だった。

全部が一つの巨大な騒音の塊だった。

でも聴いていると、その中から少しずつ音が分かれてくる。

ギターのリフが聞こえる。

ベースが聞こえる。

ドラムのパターンが聞こえる。

ボーカルの声そのものが、一つの楽器のように聞こえてくる。

曲の展開が見えてくる。

「あ、ここで一回落とすのか」

「ここから一気に来るのか」

「このリフ、めちゃくちゃ気持ちいいな」

となる。

同じ「うるさい」なのに、中に情報がある。

最初は真っ黒な壁にしか見えなかったものに、近づいてみたら無数の模様が入っていた。

メタルは、うるさい音楽ではなくなるのではない。うるさいまま、その奥にあるものが聞こえるようになる音楽なのかもしれない。

メタルの魅力① ギターリフが、とにかく気持ちいい

メタルを聴くようになって、まず面白さが分かったのがギターだ。

特にリフ。

リフとは、曲の中で繰り返される印象的なフレーズのこと。

昔の僕には全部、

「ジャジャジャジャジャ」

だった。

雑である。

しかし聴き慣れてくると、この「ジャジャジャジャジャ」が全部違う。

重い。

速い。

刻む。

跳ねる。

引きずる。

突然止まる。

また来る。

たった数秒のフレーズなのに、

「もう一回来てくれ」

と思うものがある。

歌のサビを待つのではない。

ギターを待っている。

これはメタルを聴き始めてから面白かったことの一つだ。

ポップスを聴いているときの僕は、どうしても歌を中心に聴いていた。

でもメタルでは、

「このギター格好いいな」

「今のドラムなんだ」

「ベース何してる?」

と、耳がいろんなところへ移動する。

ボーカルだけを追いかけるのではない。

バンド全体を聴くようになる。

ベースをやっていた僕には、ここがかなり面白い。

メタルの魅力② 「重い」という快感がある

音楽について、

「この曲、重いな」

という表現をする。

よく考えると変である。

音に重量はない。

メタルを流したからといって、体重計に乗って数字が増えるわけでもない。

なのに確かに、

重い。

低くチューニングされたギター。

歪んだ低音。

ベース。

バスドラム。

それらが重なると、耳だけではなく身体へ音がぶつかってくるような感覚になる。

特に大きな音で聴くと分かりやすい。

音楽を「聴く」というより、音の塊を浴びる。

この重さそのものが気持ちいい。

昔の僕は、この圧力を全部「うるさい」に入れていた。

でも今は違う。

軽やかな音楽には軽やかな気持ちよさがある。

美しい音楽には美しい気持ちよさがある。

そしてメタルには、

重いものを受け止める気持ちよさがある。

今日は軽やかになりたくない。

爽やかにもなりたくない。

もっと重たいものがほしい。

そんな日にハマる。

音楽にも重量が必要な日があるらしい。

メタルの魅力③ わざわざ音を歪ませる

メタルの大きな特徴の一つが、ギターの歪みだ。

音楽を知らなかった頃の僕からすれば、不思議だった。

普通、音が割れたら失敗じゃないのか。

テレビのスピーカーがバリバリ鳴ったら「壊れた」と思う。

イヤホンから変な音がしたら買い替える。

なのにギターは、わざわざ機材を使って歪ませる。

綺麗な音を出せるのに、わざわざ汚す。

考えてみれば変な文化だ。

でもメタルでは、その「汚れ」が格好いい。

音が歪むことで、ギターが一本の線ではなく巨大な壁のようになる。

そこにベースとドラムが重なる。

綺麗な音だけでは出せない迫力が生まれる。

メタルは、綺麗に整えることだけを目指していない。

むしろ歪ませる。

潰す。

重くする。

荒くする。

普通なら欠点になりそうなものを、魅力に変えてしまう。

これが面白い。

人間の感情だって同じかもしれない。

いつも明るく、前向きで、爽やかでいられるわけではない。

腹が立つ。

嫉妬する。

落ち込む。

全部嫌になる。

そんな感情を「なくしましょう」と言われても、なくならない。

メタルは、それを綺麗にしようとしない。

汚い感情なら、汚いまま鳴らしてしまえ。

僕には、そんな音にも聞こえる。

メタルの魅力④ 「速いだけ」の奥に、とんでもない演奏技術がある

学生の頃の僕は、メタルのドラムを聴いて、

「速いなあ」

としか思っていなかった。

申し訳ない。

今考えると、あまりにも雑な感想である。

もちろん速さは魅力の一つだ。

ツーバスを使った高速のフレーズ。

細かく刻まれるリズム。

猛烈なスピードで動く手足。

でも、ただ速ければいいわけではない。

あれだけ音数が多い中で、ギターやベースと合わせる。

テンポが速くても崩れない。

突然展開が変わっても、全員が同じところへ着地する。

聴いている側は、

「ドコドコドコドコ!」

で済ませられる。

演奏する側は済まない。

僕はベースを少しやっていたからこそ、あとになって分かる。

速く弾くことも難しい。

でも、

速い中で正確に合わせ続けることは、もっと恐ろしい。

ギターもそうだ。

猛烈な速弾きをしながら、次の瞬間には全員で同じリズムを刻む。

一人だけ上手ければ成立するわけではない。

全員が合わなければ、ただの事故になる。

激しい音の中に、ものすごく細かい制御がある。

暴れているように聞こえるのに、実際にはめちゃくちゃ統制されている。

この矛盾が格好いい。

メタルの魅力⑤ 「静」と「爆発」がある

メタルというと、最初から最後まで、

ドコドコドコドコドコドコ。

ずっとこれだと思われがちだ。

僕もそう思っていた。

でも実際には、静かなパートを持つ曲もたくさんある。

綺麗なギター。

静かな歌。

一瞬の空白。

そこから、

ドン。

と全部が戻ってくる。

これが気持ちいい。

最初から最後まで最大音量なら、最大音量であることに慣れてしまう。

一度引くから、次の爆発が大きく感じられる。

ジェットコースターだって、ずっと落下しているわけではない。

上る。

止まりそうになる。

そして落ちる。

メタルにも似たところがある。

静けさがあるから激しさが際立つ。

美しい部分があるから、歪みがより強烈になる。

暗いからこそ、一瞬の明るさが目立つ。

「うるさい音楽」と一言で片づけると、この落差の気持ちよさを見落としてしまう。

メタルの魅力⑥ 曲の展開が読めない

ポップスには、ある程度分かりやすい構造がある。

Aメロ。

Bメロ。

サビ。

もちろん全部がそうではないが、初めて聴く曲でも、

「そろそろサビかな」

と予想できることがある。

メタルには、その予想を気持ちよく裏切ってくる曲がある。

急にテンポが変わる。

急に静かになる。

突然ギターソロが始まる。

終わったと思ったら、まだ終わらない。

「どこ行くねん」

と思う。

そして、なぜか帰ってくる。

ジャンルによっては曲そのものがかなり長く、一本の短編映画みたいに展開していくものもある。

ただ気持ちいいフレーズを繰り返すだけではなく、曲全体に物語がある。

一回聴いただけでは分からない。

だから、もう一度聴く。

すると、

「あ、ここ最初のフレーズとつながってるのか」

と気づく。

また聴く。

別の音が聞こえる。

聴き込むほど発見が増える。

これもメタルの面白さだと思う。

メタルの魅力⑦ ボーカルは「歌詞を伝える人」だけではない

そして、最初に最も理解できなかったのがボーカルだった。

何を言っているのか分からない。

叫んでいる。

唸っている。

そこまでして歌詞を聞き取りにくくする必要があるのか。

昔はそう思っていた。

でも今は、メタルのボーカルは必ずしも「言葉を綺麗に届ける人」だけではないと思っている。

声そのものが音だ。

歪んだギターと同じように、人間の声も歪ませる。

怒り。

苦しさ。

恐怖。

絶望。

普通の発声では足りない感情を、声の質感そのもので伝える。

だから僕が社会人になってメタルを聴き直したとき、

「何を言っているのか分からない。でも、何を言いたいのかは分かる」

と感じたのだと思う。

歌詞を一文字ずつ理解していなくても、感情は届く。

人間は腹が立ったとき、教科書の朗読みたいには怒らない。

「私は現在、非常に強い憤りを感じております」

とは言わない。

「うおおおおお!」

の方が正しい日もある。

メタルは、その「うおおおおお!」を作品にしてしまった音楽なのかもしれない。

メタルの魅力⑧ 世界観がやたら大きい

メタルの面白さは、音だけではない。

世界観も独特だ。

死。

戦争。

宗教。

神話。

悪魔。

社会。

孤独。

絶望。

生と死。

扱うものが、やたら重い。

普通の恋愛ソングを聴いていたと思ったら、メタルでは突然、人類の滅亡について考えさせられる。

話がでかい。

今日、好きな人からLINEが返ってこなかった。

そんな規模ではない。

世界が終わる。

もちろんメタルにもいろんな歌詞があるので全部が暗いわけではない。

でも、日常の明るい感情だけではなく、人間ができれば見たくないものまで音楽にする文化がある。

そこも僕は面白いと思う。

小説でも同じだ。

明るく楽しい話だけが必要なわけではない。

怖い話を読む。

人が死ぬ話を読む。

救いのない話を読む。

現実では経験したくないものを、作品の中では経験したくなる。

ホラー小説を読む人が、本当に幽霊に襲われたいわけではない。

メタルも似ているのかもしれない。

暗いものを、安全な場所から覗く。

そして、自分の中にもある暗い部分と少しだけ向き合う。

メタルの魅力⑨ 「メタル」と一括りにできないくらい種類がある

そして調べていくと困ることがある。

メタル、多すぎる。

ヘヴィメタル。

スラッシュメタル。

デスメタル。

ブラックメタル。

パワーメタル。

プログレッシブメタル。

ドゥームメタル。

シンフォニックメタル。

さらに細かく枝分かれしていく。

森か。

「メタルが苦手」と言っている人でも、実はその人が苦手なのは特定のタイプだけかもしれない。

速いのが好きな人もいる。

重いのが好きな人もいる。

壮大なのが好きな人もいる。

複雑な演奏が好きな人もいる。

メロディーが美しいものが好きな人もいる。

「メタル=叫んでドコドコしている」

だけではない。

入口が大量にある。

だから一曲聴いて、

「メタル無理」

と判断するのは、少しもったいない。

僕が高校生の頃にやったことだ。

巨大な本屋へ入って一冊だけ開いて、

「本って面白くないな」

と言って帰るようなものだったのかもしれない。

メタルの魅力⑩ 聴けば聴くほど、耳が変わっていく

僕が個人的に一番面白いと思うのは、これかもしれない。

最初は分からなかったものが、少しずつ分かるようになる。

昔は一枚の騒音だった。

今は、その中にいくつもの音がある。

昔は、

「速いドラム」

だった。

今は、

「このリズム格好いいな」

になる。

昔は、

「歪みすぎたギター」

だった。

今は、

「このリフ、もう一回来てくれ」

になる。

昔は、

「何言ってるか分からない叫び声」

だった。

今は、

「この声じゃないと、この感情は出ない」

と思うことがある。

音楽は変わっていないのに、こちらの耳が変わる。

これは結構すごいことだと思う。

分からないものを、分からないまま少しだけ聴いてみる。

すると、昨日までノイズだったものに形が現れる。

メタルは、その変化が分かりやすい音楽なのかもしれない。

最初の壁が高い。

だからこそ、その壁を越えたときに見えるものが多い。

怒っているときに激しい音楽を聴くと、余計に怒らないのか

ここで疑問が出てくる。

腹が立っているときに、さらに激しい音楽を聴いたら、余計に腹が立つのではないか。

感覚だけで考えれば、そう思う。

怒っている人に爆音。

危ない組み合わせに見える。

ところが、これについて面白い研究がある。

2015年、オーストラリアの研究者Leah SharmanとGenevieve Dingleは、18歳から34歳までのエクストリーム・ミュージックのリスナー39人を対象に、怒りと音楽の関係を調べた。

参加者に怒りを引き起こす課題を行ったあと、自分で選んだエクストリーム音楽を10分聴く条件と、10分間静かに過ごす条件を比較した。

結果、激しい音楽を聴いたことで怒りがさらに増幅したわけではなかった。

研究では、音楽が高い覚醒状態に寄り添いながら、活動的・刺激を受けたといったポジティブな感情を高めたことが報告されている。

もちろん、39人を対象にした研究一つで、

「メタルを聴けば誰でもストレス解消!」

とまでは言えない。

そもそも対象は、普段からその手の音楽を好んでいる人たちだ。

メタル嫌いの人を部屋に閉じ込めて爆音で聴かせ、

「研究でストレスにいいらしいよ」

と言ったら、たぶん新しいストレスが誕生する。

でも、この研究を知ったとき、僕は自分の体験を思い出した。

全部嫌になった日に聴いたメタル。

僕は音楽によって怒らされたのではない。

すでに僕の中にあったものと、音楽の激しさが合った。

静かな曲に、

「大丈夫だよ」

と言われるより、

「分かる。腹立つよな。じゃあ一緒に叫ぼうぜ」

と言われたような感覚だった。

僕が感じた、

「自分の叫びを代弁してくれている」

という感覚は、案外おかしなものではなかったらしい。

ネガティブな感情を、無理にポジティブへ変えなくていい

僕はここが、メタルのかなり大きな魅力だと思う。

世の中には、ポジティブになるための言葉が多い。

前向きに。

気持ちを切り替えて。

明日はきっといい日になる。

それはそれでいい。

救われる日もある。

でも、そんな言葉を聞きたくない日もある。

明日がいい日になるかどうかなんて、今は知らん。

今日は腹が立っている。

今はしんどい。

まず、この感情をどうにかしたい。

そんなとき、メタルは無理に笑わせようとしてこない。

激しい音で、激しいまま受け止めてくれる。

悲しいときに悲しい小説を読みたくなることがある。

失恋したときに失恋ソングを聴きたくなることもある。

「今の感情と同じもの」が外側にあるだけで、人は少し楽になることがある。

自分一人の中にあったものが、音になって外に存在している。

それだけで、

「ああ、これでいいのか」

と思える。

僕にとってメタルは、怒りを消してくれる音楽というより、

怒りに居場所を作ってくれる音楽

なのだと思う。

メタルを聴く人は頭がいい?

そしてメタルについて調べていると、妙に気になる話が出てくる。

「メタルを聴く人は頭がいい」

本当か。

急に僕に都合のいい話が出てきた。

もっと早く教えてほしかった。

学生の頃、「うるさいだけ」と切り捨てていた僕は、知性への扉を自分で閉めていたのかもしれない。

調べてみると、脳科学者の中野信子さんは『メタル脳 天才は残酷な音楽を好む』という本まで出している。

タイトルが強い。

『天才は残酷な音楽を好む』。

どうした、メタル。

僕が知らない間に、そんな知的な肩書きを手に入れていたのか。

KADOKAWAによる同書の紹介では、中野さんはさまざまな研究を取り上げながら、ヘヴィメタルと認知機能、知的好奇心、ストレス耐性などについて論じている。

さらに、孤独や不安、自己評価、攻撃性などとメタルの関係も扱っている。

つまり単純に、

「難しい音楽が分かる人は頭がいい」

という話だけではない。

怒りや絶望のようなネガティブな感情とどう付き合うのか。

周囲と違う自分をどう扱うのか。

そんなところまでメタルから考えている。

これを知ると、僕が社会人になってからメタルに戻ったこととも少し重なる。

学生時代には必要なかった音が、社会人になって必要になった。

「うるさい」と遠ざけていたものが、いつの間にか自分の感情を置く場所になっていた。

メンタリストDaiGoさんも「頭のいい人とメタル」を取り上げていた

さらに調べると、メンタリストDaiGoさんも2019年にYouTubeで「【天才】トップ5%の頭いい人たちが好む音楽とは」という動画を公開し、ヘヴィメタルを取り上げている。

参考文献として挙げているのが、S.M. Cadwalladerによる2007年の『The Darker Side of Bright Students: Gifted and Talented Heavy Metal Fans』だ。

ここまで来ると、

「やっぱりメタラーは頭がいいんじゃないか」

と言いたくなる。

できればここで記事を終わらせたい。

しかし、そう簡単ではない。

この資料について重要なのは、

もともとギフテッド、つまり高い能力を持つ若者を対象にした研究だということ。

一般の人を大量に集めて知能を測り、

「メタルを聴いている人の方が頭がよかった!」

と証明した研究ではない。

だから、

メタルを聴く人=頭がいい

とは言えない。

まして、

メタルを聴けば頭が良くなる

とまで言ったら、さらに飛躍する。

DaiGoさん自身も動画概要欄で、参考文献をもとにした自身の考察を含み、一説として見てほしいという趣旨の注意書きをしている。

ここは大事だと思う。

「天才が聴く音楽らしいぞ!」

だけ切り取った方が派手だ。

でも、それではメタルの魅力を説明したことにはならない。

僕が面白いと思うのは、頭の良さそのものより、

なぜ高い知的能力を持つ若者の一部が、こんな激しい音楽に惹かれたのか

という部分だ。

ストレス。

孤独。

周囲との違い。

怒り。

自分の内側にあるものを、普通の言葉では処理しきれないときに音楽を使う。

そう考えると、先ほどの怒りの研究ともつながってくる。

メタルは「頭がいい人だけが理解できる高尚な音楽」なのではない。

そんなことを言い始めたら、急にメタルが嫌なやつになる。

僕はむしろ、

複雑なものや強い感情を、強い音のまま抱えられる音楽

であることに魅力があるのだと思う。

結局、メタルの一番の魅力は何なのか

ここまでいろいろ考えてきた。

ギターリフ。

歪み。

重い低音。

速さ。

演奏技術。

静と動。

予想できない展開。

ボーカル。

世界観。

ジャンルの広さ。

聴き込むほど変わる聞こえ方。

そして感情との相性。

どれもメタルの魅力だと思う。

でも僕にとって、一番大きいものを一つ選ぶなら、

感情の強度を落とさなくていいこと

なのかもしれない。

僕たちは普段、感情を社会に合わせた大きさへ調整している。

腹が立っても、小さくする。

悲しくても、仕事中なら普通にする。

嫌なことがあっても、笑って返す。

「それはおかしいだろ」

と思っても、

「承知しました」

に変換する。

社会人になると、この変換作業が上手くなる。

それは必要な能力でもある。

毎回、本音を最大音量で出していたら生活できない。

でも、ずっと音量を下げていると、自分でも元の音量が分からなくなる。

メタルを聴くと、それを一度最大音量に戻してくれる。

自分が叫ぶ必要はない。

音楽が叫んでくれる。

自分が机を叩く必要もない。

ドラムが叩いてくれる。

自分が何かを壊す必要もない。

ギターが十分に歪んでいる。

そう考えると、

ずいぶん平和な音楽ではないか。

57歳からメタルバンドを組む小説を読んだ

そして最近、メタルバンドを題材にした小説を読んだ。

眞邊明人さんの『57歳のメタルランド』。

タイトルの通り、57歳の男たちがメタルバンドを組む物語だ。

仕事。

家族。

挫折。

失われたもの。

もう若くないという現実。

それぞれがいろんなものを抱えながら、それでも楽器を持って音を鳴らす。

僕はこの小説を読みながら、今回考えてきたことと重なる部分があるなと思った。

なぜ、メタルなのか。

別に静かな音楽でもいい。

優しい歌でもいい。

でも、人生にはそれでは足りない瞬間がある。

綺麗な音では吐き出せないものがある。

静かな言葉では届かない感情がある。

だったら、歪ませればいい。

叫べばいい。

叩けばいい。

音楽の中くらい、思い切りやればいい。

『57歳のメタルランド』を読んでいると、メタルは若者だけの反抗の音楽ではないのだと思えてくる。

むしろ大人になって、いろんなものを飲み込んできた人間にこそ必要になる音があるのかもしれない。

僕自身、学生時代より社会人になってからの方がメタルの気持ちよさが分かった。

だから妙に納得した。

この記事を読んで、

「ちょっとメタルを聴いてみようかな」

と思った人がいたら、ぜひ『57歳のメタルランド』も読んでみてほしい。

詳しい感想・考察は別の記事に書いている。

メタルが好きな人はもちろん、昔バンドをやっていた人、もう一度何かを始めてみたい人にも読んでほしい小説だった。

昔の僕に、もう一度メタルを聴かせたい

もし高校生の頃の僕に会えたら、メタルを聴かせてみたい。

たぶん言う。

「なんだこれ。うるさいだけやん」

僕はたぶん笑う。

分かる。

僕もそう思った。

ボーカル、何言ってるか分からんよな。

ギター、歪みすぎやな。

ドラム、急いでるな。

ベース、どこにおるんやろな。

その感想は、別に間違っていない。

メタルはうるさい。

今でもそう思う。

ただ、一つだけ言いたい。

もう少しだけ、その奥まで行ってみてくれ。

うるさい音の中に、驚くほど細かい演奏がある。

歪みの中に、美しさがある。

重い低音には、身体で感じる快感がある。

叫び声の中に、言葉より先に届く感情がある。

速さの中に、恐ろしいほどの正確さがある。

静けさのあとには、とんでもない爆発が待っている。

一度では分からない曲が、二度、三度と聴くうちに違って聞こえてくる。

暗い世界観の中には、自分の暗い感情を安全に置ける場所がある。

そしていつか社会人になって、

全部が嫌になった日。

「分かりました」と言いたくもないのに言って、

腹が立っているのに普通の顔で帰って、

それでもどこにも怒りを置けない日。

たぶん、その音が必要になる。

昔は騒音にしか聞こえなかったものが、

「代わりに叫んでくれている」

と感じる日が来るかもしれない。

音楽は同じだ。

変わるのは、自分の方だ。

メタルはうるさい。だから、いい。

この記事を書くために改めてメタルについて調べてみると、僕が感覚で思っていた以上に面白い音楽だった。

怒りを増幅するどころか、ファンにとっては怒りを処理する手段になり得るという研究がある。

中野信子さんは一冊丸ごとメタルと脳について書いている。

DaiGoさんも、ギフテッドの若者とメタル嗜好を扱った資料を紹介している。

ただし、

「メタルを聴く人は頭がいい」

と単純には言えない。

メタルを流しながら寝たら、翌朝IQが20上がっているわけでもない。

残念だ。

僕もこの記事を書きながらメタルを聴いているが、今のところ天才になった感覚はない。

でも、別にそれでいい。

僕がメタルを聴く理由は、頭を良くするためではない。

ギターリフが格好いい。

重い音が気持ちいい。

ドラムがすごい。

演奏を聴いているだけでも面白い。

曲の展開に驚かされる。

叫び声だからこそ伝わる感情がある。

聴けば聴くほど、それまで聞こえなかった音が聞こえてくる。

そして、

怒りたいときに怒れる。

叫びたいときに、代わりに叫んでくれる。

何もかも綺麗に整えなくていいと思わせてくれる。

昔の僕は、

「メタルはうるさいだけ」

と思っていた。

今も前半は変わらない。

メタルはうるさい。

たぶん、これからもずっとうるさい。

でも今の僕には、その奥が聞こえる。

だから消したいのは、

「うるさい」

ではない。

たった二文字だ。

「だけ」。

メタルはうるさい。

でも、うるさいだけじゃない。

むしろ、ときどき思う。

メタルはうるさい。だから、いい。

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